記録映画「山に生かされた日々」

2000年2月22日新潟日報夕刊に掲載したコラム【晴雨計】4回目




 朝日連峰の懐深くにある奥三面。人々は山の恵みを受けて暮らし続けてきた。その村がダムに沈む。みごとに山の自然と対応した人々の暮らしと、閉村を前にした想いを綴った長編記録・越後奥三面「山に生かされた日々」は、姫田忠義さんが四年の歳月をかけて撮った2時間25分の執念の大作だった。
私は観たいと想い続けてきたこの映画を、昨年12月ついに観ることができた。映画が完成してから十六年の歳月が流れていたことになる。映画を観ての感動は言葉で言い尽くせないものがある。「日本の記録映画の歴史の上で、一つの金字塔のような位置を占める作品である。」これは新潟県出身の映画評論家・佐藤忠男さんの評である。佐藤忠男さんは奥三面に内在する本質、そして作者の意図と執念まで見事にとらえて語っているので、後半の部分を紹介したい。
このダムの建設に村人たちは反対した。しかしその反対運動は世間の耳目をひくことは少なかった。人里はなれた土地のことだったせいか、ダム建設のために消える村は多く、当たり前のことのように感じられていたせいか、この映画はそうした常識的な理由の他に、実はこうした山の生活が、どれだけ貴重な意味をもつものであるかを、人々が知らなかったからこそ、村人たちの反対運動は孤立して、消えてゆかざるを得なかったのであることを明らかにしている。鈍く重い底光りのするような輝きは、この忘れられたような小さな村のあり方によって、人間の過去というよりは、むしろ未来を照らし出そうという作者の意志から発しているのである。と語っている。
この映画は、優秀映画鑑賞会特選・キネマ旬報ベストテン二位・日本映画ペンクラブ特選・シカゴ国際映画祭ドキュメンタリー部門銀賞・日本映画ペンクラブノンシアトリカル部門一位という輝かしい賞を受けていた。しかし映画の中では、どこを見ても受賞のジュの字も出てこなかった。栄えある受賞実績をいれないのは、いかにも姫田さんらしい。

石をくり貫いて作った石風呂(撮影:中俣正義氏)
ご遺族のご厚意により使わせて頂きました。



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