映画の時代 -47-



●徒弟制度と職人気質

職人気質(かたぎ)、という言葉がある。この道一筋、裸一貫、修行に修行を重ねて、一定の技能者としてある到達点に達した人を賞賛して使われることが、しばしばある。これは良い意味として用いられる。
反面、頑固一徹で、周囲の状況を考えず、他人の声にはあまり耳を傾けない、対人関係が苦手、妥協が嫌い、融通が利かない、などの負のイメージがあることも否定できない。しかし、実際に接してみると、真面目で純真な人が多いのだ。私は子供の頃から、人とのコミュニケーションが大の苦手の方だった。だから、高校を卒業すると、最初の就職先に工場を選んだ。人と接しなくても良いと考えたからだ。今でも私は職人気質の人に会うと、何故かほっとする。これは私自身が職人気質で、基本的に職人気質の人が好きなためである。

徒弟制度については前にも書いたが、衰退傾向にはあるといえど、大工・看板・陶芸・左官・建具・表具・塗装・金型成型・料理……など、もの作りの職人の世界だけに留まらず、相撲・ボクシング・プロレスなどのプロスポーツの世界にも厳然とある。徒弟制度というのは、どんな世界なんだろう?
相撲の世界をみていただきたい。相撲の世界はシンプルでわかり易い。親方、兄弟子、新弟子、という厳然たる上下の序列があり、師匠と弟子の関係が極めて濃密なため、泥臭さも会わせ持っている世界でもある。
従って、良いにつけ、悪いにつけ、師匠の生き方の影響を受けることになる。新弟子としては、師匠・兄弟子とのめぐり合わせが、これからの生き方をも、決定すると言っても過言ではない。

それだけに、いい加減な気持ちでは、上に上がっていけない厳しさがある。素質のほか、向上心とひたむきな努力が要求される。もの作りの職人でも、プロスポーツ選手でも、その道の一流になるためには共通した条件がある。それは「ハングリー精神」に他ならない。自分の可能性を伸ばしていく過程に、誰しも壁に突き当たる時がある。それを乗り越えていけるのは「ハングリー精神」があるか、ないかで決まるような気がする。
徒弟制度には、独特な切磋琢磨の厳しい世界がある。その集団の中で、もまれ、鍛えら、大きく成長していける風土がある。

話が広がリ過ぎたようだ。看板の徒弟制度に話をもどすことにしよう。絵描きさや文字描きの、先輩職人の仕事ぶりを見ていると、自分でも描けるような気がしてくる。そこで、仕事が終わってから、絵や文字を描く練習をする。しかし、先輩のようにうまく描けない。先輩は普段は何も教えてくれないが、こちらから教えを乞えば、丁寧にアドバイスをしてくれた。先輩の言ってくれた、何気ない一言がきっかけで、急に上手くなったということもある。
また、先輩の仕事ぶりを見て、教わるという部分がいっぱいあった。文字を描くことをレタリングというが、当時、レタリングの教則本などなかったので、模造紙に鉛筆で升目を引き、新聞の活字をお手本にしながら、一生懸命にレタリングの練習をしたものだ。絵も同様で、先輩達の描き方を真似て、自分から積極的に練習をしてきた。自分の腕が上がってくることが実感できる時がある。そんな時は、何にもまして嬉しく、充実感を味あうことができた。また、出来上がった絵を見てもらった先輩から「上手くなった」と誉められた時など、天にも昇るような気持ちになったものだ。



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