映画の時代 -42-




●70ミリの迫力「ウエストサイド物語」

70ミリ映画の大画面。ダンスシーンの圧倒的な映像と、そして立体音響の迫力。 ミュージカル映画は何本も観てきたが、この映画を観て私のこれまでのミュージカル映画の概念が完全に覆されてしまった。
それまでのミュージカル映画は、夢があり、愛があり、明朗で、華麗で、ハッピーな結末で終わるイメージがあった。 しかし、この映画の舞台は大都会ニューヨークの負の部分とも言える、ごみごみした埃っぽいスラムであり、 登場人物は汗の臭いのするような不良少年達だ。 また移民や人種差別などの社会問題も内包し、結末も悲劇的である。 この「ウエストサイド物語」は、あらゆる点で従来の概念を覆したエポックメーキングな、 そして最高のミュージカル映画と言えるのではないだろうか。

「ウエストサイド物語」を私が始めて観たのは、丁度、歌舞伎町の映画看板製作会社に就職した年の1961年である。 前評判も高かったので、連日、映画館に入ろうとする人々の長蛇の列ができていた。 冒頭のシーンからカッコイイ。ニューヨークの摩天楼のビルが林立するマンハッタンを、 上空から俯瞰した映像から、ゆっくりとズームアップアップしていく。ダイナミックな音楽が、 これから起こるドラマを暗示するかのように観客を誘う。

シェーピクピア原作の「ロミオとジュリエット」のストーリーを現代版に置き換え、 ニューヨークの街に移して製作されたミュージカル超大作という触れ込みだったが、 あの古典の趣は全くなく、ニューヨークに住む二つの対立する若者集団のリアルな抗争としてストーリーが展開していく。 しかし。原作がもっている人間模様が綾なすドラマチックな展開が、見事なまでにまで生かされいる。 この映画を初めて観たときは、あまりの迫力で度肝を抜かれたような衝撃を受けた。 映画を観終わってから、絶対もう一回観にこようと思った。そして その後、私はこの映画を5回ほど観てしまった。
その当時だからビデオのことではない。映画館に足を運び、料金を支払った上でのことだ。 ストーリーも結末も判っている映画を何度も見るということは、普段はそう無い。 そう、この映画の価値はストーリーではなく、歌とダンスの素晴らしさにあるだ。 私は、ある程度の評判や予備知識を持ってからこの映画を見たが、インパクトの大きさは想像以上であり、 レナード・バーンスティンの音楽とジェローム・ロビンスの振り付けに圧倒された。

この映画の初公開時、東京の「丸の内ピカデリー」では単館で、約1年4ヶ月のロングランを記録している。 その後、何度かリバイバル上映された。最初のリバイバル上映までの間が確か7、8年位あっただろうか。 しかし、ビデオが普及するようになってこうした「リバイバル上映」はされなくなった。 確かにビデオは、いつでも好きなときに見ることができる。 家庭用TVの画面サイズも大きくなってはいる。 でも映画館の画面(特にこの映画は70mm)で見る場合とは、その迫力、躍動感、音響の効果など全く異なるものと言ってもいい。 ビデオでの映画はただ「見た」というだけだ。 私達はビデオの手軽さ便利さの代わりに、「映画」の感激や感動というものをかなりの部分で失っているように思えてならない。 この年のアカデミー賞で「ウエストサイド物語」は実に11部門で受賞している。 この記録は現在までの映画を含めてもこの記録は破られていないと思う。 


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