映画の時代 -29-



●高いところはスリル満点

地球座、新宿座の軒上看板は入口前の壁面の高い所に額縁がある。 ここは3人位で設営する。 二つに折られた脚立を伸ばし、 一本のはしご状態にしてから額縁が設置された建物の壁面に掛ける。 はしごの根元が動かないように一人に押さえてもらう。 メンバーの一人が はしごに登る。 最上段近くまで登らないと看板に位置に手がかからない。 上から見ると、 はしごがしなっていて怖い。 まず、 ドライバーを使って一枚目の看板を額縁から外す。 外した看板を左右の手で持ったまま、 はしごに沿って滑らせながら、 ゆっくり降りてくる。 バランス感覚がないと、 途中で看板ごと落っこちてしまう危険性がある。 壁面の看板は4枚がセットになっているので、 脚立を移動しながら4枚の古い看板を全て下ろしていく。 空になった額縁に、 今度は新しい看板の取り付けだ。 新しい看板を1枚ずつ両手で持ったまま、脚立を上がっていく。 何と言っても風が怖い。 看板が新しければ額縁にスイスイ入るのだが、 紙を貼り貼り、 何十回も使っている看板ほど歪んでいるので、 額縁に入れるのに苦労する。 4枚の新しい看板が納まった時点でその掲示箇所の取り付けが終了。 次の取り付け箇所へと移動する。

前評判の呼び声が高い映画は額縁に納まらない、 特別なディスプレーを設置することがよくあった。入口周辺にアーチを作って、 スターの絵の切り抜きや、 タイトルの切り抜文字を取り付たり、 そのタイトル文字に金粉を施しキラキラさせることもよくやった。 今の映画館と比べるとハデなことをやっていたものである。

映画館の建物を離れた所にも掲示場所がある。 こういうところも映画が切り替わる前日あたりに、新しい看板に切り替えておかなければいけない。 業務の仕事は結構忙しい。 日比谷駅前にある大看板の取り付けは、 業務部の若者5〜6人で作業してくることになるが、 が、 業務部のだれもが この現場が嫌いだった。 朝が早いのだ。 駅前は人通りが激しい。 そこで、 通勤ラッシュが始まる前に取り付けを終わらなければ ならなかったのだ。 朝5時頃起きて取り付けに行く。 この現場へはサイドカーではなく、 トヨエースに積んで看板を運ぶ。 すし屋、 パチンコ店、 麻雀店などが入っている雑居ビルの屋上が取り付け現場だ、 まず、 ビルの屋上に2本のロープの束をもって3人ほどがビルの屋上に上がる。 下を見るとネオンの看板がゴチャゴチャと一杯あるのだ。 看板を上げ下げする時にネオン管にチョットでも触れるとネオンがいかれてしまう。 恐ろしい現場だった。

この現場での取り付けはこうだ。 まず、 ビルの屋上に設置してある額縁から外した 看板の上下に、 1本づつロープを結ぶ。 下のロープを地上にいる仲間に向けて投げる。その後、 看板を上からゆっくり降ろしていくのだが途中にネオン管に触れないように、 下からもロープを引き、上と下でロープを引きあって、 ネオン管を避けながら、 そろそろっと降ろしていかなければならない。新しい看板を上に引き上げる時も、 同じ要領で一枚づつ上げていく。 チームワークが必要だ。 チョットでも触れるとネオンが壊れてしまう。 非常に神経を使う現場だった。 風が強い 日は看板が煽られてしまう。 やはり風が難敵だ。 冬の寒い早朝などは、 手がかじかんでハンマーを下に落としてしまった、 などということが何度かあったが大事に至らなかった。 今考えてもぞっとする現場だった。その後、日比谷駅前は再開発され、 あのゴミゴミした雑居ビルは壊され当時の面影はない。 今は近代的なビルがそびえている。


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