映画の時代 -22-



●徒弟制度が残っていた

30人余の従業員はみんな映画が三度のメシより好きな人たちばかりだった。 北は北海道、 南は沖縄。 様々な地方の出身者が働いていた。 この会社では、良い意味での徒弟制度が組織化されて存在していた。 映画看板は作画部 ・ 制作部 ・ 業務部の3つの部門が携わって出来上がり、 街行く人々の目に触れることになる。 この会社では徒弟制度がまだ残っていた。 今回はこの制度について書いてみたい。

映画の魅力とは何だろう。ストーリーの面白さ、映像の魅力というのは当然ある。 挿入されている映画音楽の魅力もある。しかし、何と言ってもスターの魅力というのが 観客動員の決めてではないだろうか。
映画看板はどうだろう。 描かれているスターの顔の表情の魅力が 看板の善し悪しの決めてになっていたような気がする。 その絵を描くのは作画部だ。 その絵を看板にのりで貼り付け、 背景色を塗り、 タイトルやキャストの文字を描くのが制作部。 完成した看板を取り付けるのが業務部だ。 業務部の仕事は、看板を描く以外の、言わば雑用係りで仕事の範囲は実に広い。 例えば新しい看板を取り付けてくると、 それまで掲示されていた古い看板を回収し、工場に持ち込む。 取り付けのない時に、回収してきた古い看板に、 新しい紙を貼り、 次の出番に向けて準備をしておく。 どんなに上手に描かれた看板でも、 一週間で消されてしまうことになるのだ。 レギュラーの映画看板は、 何回も何回もその都度紙を張って使うのが普通のやい方だ。 痛んだ看板を補修したり、 泥絵の具と言われる絵の具を作るのも業務部の仕事で、 新人の見習いは業務部に所属して、 作画部、 制作部の先輩たち仕事の下仕事・ 雑仕事をやりながら、 上を目指して修行していくことになる。 作画・制作の部長が親方としたら、 作画部・制作部に所属しで働く人が職人であり、 業務部が弟子の集団という構図になる。

絵が好きで将来は絵描きになりたい、 と思っている者は作画部に、 文字を描くのが好きな者は制作部に入ることを目指していく。 先輩である職人を見習って、 作品を見る眼と技術を磨いていくかなければいけない。 絵の練習や、文字の練習は、 一日の仕事が終わってからになる。 遊ぶところが周りに多いだけに、 よほど向上心を強く持っていないと、 誘惑に負けてしまいかねない。 ライバルはいっぱいいる。 作画部や制作部に入って仕事をするのが 業務部全員の夢となっていたのだ。 その他に、 看板の生地(木枠)を作る独自の部門として大工さんが働く工務部があった。


MENU

HOME

NEXT



inserted by FC2 system