映画の時代 -20-



これはめずらしい工場内の集合写真。
描かれている絵は左:加山雄三/右:高峰秀子
さてこの看板の映画は何でしょう?

●絵の具の色いろいろ

日本画では顔料を練る溶剤として膠が未だに使われている。 ヨーロッパの中世の頃、 壁画を描くために盛んに使われたテンペラ という絵の具は溶剤として卵が使われる。 油絵の絵の具では油性の溶剤、 アクリル絵の具はメジュウムという溶剤を使って顔料が練り上げられたものが製品化されている。 アクリル・ガッシュとかリキテックスがこのタイプである。 要するに、 全ての絵の具には共通して同じ顔料が使われており、 何を溶剤といて使っているかによって、 それぞれ性質の異なる絵の具となる。 ところで、 アクリル絵の具に溶剤として使われているメジュウムって何だろう、 と疑問に思い辞書を引いてみた。

medium=@中くらいの(大きさ、質、量、程度などが)
A(名・複) media(伝達、通信、表現などの)手段、機関、媒体

メディアという言葉はすでに日本語化しているが、 メジュウムがその元の意味だったことがわかった。

話がそれてしまった。元にもどそう。 毎日、始業の前に朝礼があり、 その日の取り付けの予定や 取り付け要員のローテーションなどの連絡が終わると、 先輩の職人たちは絵の具の整備からその日の仕事が始まる。 絵の具の担当としては、 職人が工場に出勤してくる前に 毎日 7色ほどの絵の具を練り上げて、大き目の缶に入れ 供給するネタとして作っておかなければならない。 兄弟子であるすべての職人が使う絵の具のネタ作りを、絵の具係りが 一手に担当することになるのだ。 朝礼が終わると 先輩たちは、 絵の具係りの私の周りに絵の具の缶 をもって集まってくる。出来たて新鮮な絵の具をもらいにくるわけだ。 供給する絵の具の中で、 一番消費が激しい色は亜鉛華という白色である。 下塗り塗り用の白色として胡粉という色が次にくる。
ところで、泥絵の具は日本名が多い。 ここに日本画の伝統を感じさせる。 例えば、 青系では群青色、新橋色がある。 新橋芸者の帯の色から新橋という名前がつけられた ということである。 茶系では弁柄色、 柿色、 赤系では洋朱、紫系では藤色、 江戸紫、 緑系では鶯色、 萌黄色、 などの言葉が使われていた。 また、 日本名のほかにレモンイエロー、ローズ、カーマインなどの英語名の顔料もあった。

作画部の人たちは、 各人が50個ほど茶飲み茶碗がきれいに収まっている木の箱を持っている。 朝のうちに、固まりかけた絵の具を攪拌しつつ新しい絵の具を注ぎ、 全て茶碗に違う色が適量入った状態にしておく。 肌色だけでも5〜6色の微妙に違う色が作られる。 私が供給する色は、全て原色であるから。例えば肌色を作る場合は、まず白のネタを 茶碗に注ぎ、そこにローズとレモンイエローをほんの少し入れてかき回し、膠を注ぎながら 丁度使いやすい濃さに調合していく。 必然的に白色の消費量が多くなってしまうのだ。 絵の具が無くなる前に、 絵の具係りとして補給する絵の具を作っておかなければならない。 泥絵の具は、時間が経ち、空気に触れると固まっていく。これは膠の性質で、 暖めると柔らかくなる性質がある。 そのため、 固まった絵の具を七輪やストーブの熱を加えながら、 柔らかくすると同時に、絵の具を補給し使い勝手の良い状態にしていく。 工場の朝は、 それぞれの持ち場で絵の具の缶をかき回すカラカラとした音が、 重なり合ってあちらことらから聞こえてくる。

泥絵の具は発色が良いのが特徴ではあるが、 この絵の具の性質上 面倒をみてやらないと、 すぐ固まっていくという難点を持っている。 泥絵の具は、温度や湿度によって変化する気難し屋なのである。 絵の具担当としては、在庫の量を見て、 絵の具やさんに電話で注文する。 原料の顔料が丈夫な茶封筒に入った状態で納品される。 手間のかかる泥絵の具に替わって、 現在は 工場で練り上げられた水性塗料として、 ネオカラーなどの絵の具が使われている。



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